トップページ > 演奏会情報 > 「北九州こども歌舞伎教室」レポート
平成22年2月11日に行われた「第1回北九州こども歌舞伎教室」の様子を紹介します。
(邦楽の店渡辺では、楽器の貸し出しや運営の補助として事業に携わりました)
「北九州こども歌舞伎教室」は、文化庁から委託を受けた財団法人・伝統文化活性化国民協会の事業のひとつとして、小倉北邦楽協会によって平成21年2月に発足されました。これは子供たちが伝統文化に触れる機会を設けることで、実体験を通じて豊かな心と礼儀作法を育んでほしいという理念に基づいています。北九州では初の試みです。
公募の結果、小学生から高校生までの児童約30名が参加しました。
子供たちの指導・稽古には、地元北九州に所縁のある専門家があたりました。舞踊・所作の指導は、北九州市若松区出身で北九州市文化大使でもある歌舞伎俳優・中村扇一朗さんと、母の舞踊家・勝美藤乃さん。三味線は小倉北邦楽協会に所属されている杵屋勝千次さん、杵屋勝藤木さん、お囃子(おはやし)は北九州にもお稽古場をもつ大阪の望月太津三郎さんがそれぞれ担当されました。
練習は舞踊・三味線・お囃子に分かれて始まりました。子供が演じる歌舞伎は全国各地に様々ありますが、「北九州こども歌舞伎教室」は役者だけでなく、地方(じかた=伴奏)も含めて全て子供たちによって演じることを目標としていました。これは非常に珍しいケースです。
演目はおなじみの『白浪五人男(しらなみごにんおとこ)』から「稲瀬川勢揃いの場」。五人の盗賊が一堂に会して名乗りを上げる有名な場面です。といっても、集まった子供たちには聞きなじみのない音楽。踊りの所作はもちろんのこと、初めて触れる和楽器の扱いにも戸惑い気味です。ところがいざ練習を始めると、皆真剣な表情で取り組んでいました。
驚いたのは、子供たちの飲み込みがとても早いことでした。歌舞伎特有の台詞回しや独特の間はなかなか覚えられるものではありませんが、それを頭で考えるのではなく、感覚でどんどん吸収しているようでした。
グループごとに練習を重ねながら、合わせ稽古も行いました。地方は初めて役者の演技に合わせながらの演奏です。徐々に上達している子供たちも、さすがに全体のタイミングを計るのには苦労しているようでした。
こうしておよそ1年間にわたり、子供たちは稽古に励みました。
本番前日は実際の舞台に上がってリハーサル。大道具や山台が組まれた舞台を間近で見た子供たちは興奮気味で、いつもの練習とは違った雰囲気を感じ取っている様子でした。衣装も身に着けて準備は本番さながら。初舞台を前に、皆最後の確認に余念がありませんでした。
当日はあいにくの雨でしたが、子供たちの晴れ姿を見ようと、会場には大勢のお客さんが詰めかけました。
第一部の『小倉北文化祭 邦楽演奏会』が終わり、いよいよ子供たちの出番です。お囃子に合わせて捕手たちが定式幕の前に現れました。
「迷子やぁい」
盗賊たちを捕らえに来た様子が語られます。声がしっかりと響いています。捕手が去って舞台は暗転。再び照明が点くと、舞台は桜が満開の稲瀬川堤です。
地方の演奏が始まりました。リハーサルでは役者との連携が難しそうでしたが、本番は落ち着いて演奏しています。やがて花道から五人男がひとり、またひとり、颯爽と現れました。堂々とした佇まいに客席が沸きました。
稲瀬川まで逃げ延びた盗賊五人。そこへ捕手が立ちはだかります。
「動くな!」
待ち伏せに遭った五人男はもはやこれまでと観念。
「かく露見の上からは、卑怯未練に逃げはせぬ」
覚悟を決め、ひとりひとり名乗りを上げます。五人男がおなじみの口上とともに見得を切ると会場は拍手喝采。そのまま最後の見せ場である立ち回りへと続き、大盛況の中、幕が下りました。
終演後の子供たちは緊張が解け、皆ほっとした表情。感想を尋ねると「プレッシャーも強かったけど、本番では練習の成果が出せた」「頑張って練習してきたので、うまくできました」と、初舞台を無事に成し遂げ、満足した様子でした。
©hougaku no mise watanabe 2009